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福岡高等裁判所 昭和39年(ネ)761号 判決 1968年6月03日

主文

原判決中控訴人等関係部分を次のように変更する。

被控訴人と控訴人等との間において原判決添付目録(一)記載の物件につき被控訴人が四五分の八の割合による共有持分を有することを確認する。

被控訴人その余の請求を棄却する。

被控訴人は同目録(一)(二)記載(但し同目録(一)9記載部分を除く)の物件につき福岡法務局昭和三五年三月一五日受付第六七二六号持分所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

控訴人等のその余の反訴請求を棄却する。

訴訟費用は第一・二審とも本訴反訴を通じて三分し、その二を被控訴人の、その一を控訴人等の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決中控訴人等敗訴部分を取得す。被控訴人の請求を棄却する。被控訴人は控訴人等に対し原判決添付目録(一)(二)記載(但し同目録(一)9記載部分を除く)の物件につき福岡法務局昭和三五年三月一五日受付第六七二五号第六七二六号の各持分所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は「本件各控訴を棄却する。控訴費用は控訴人等の負担とする。」との判決を求めた。当事者双方の主張及び証拠の関係は、左に附加するほか原判決事実摘示中控訴人等に関する部分の記載と同一であるから、ここにこれを引用する。

(控訴代理人の主張)

一、仮りに、本件物件が亡倉成粂吉の遺産であつて、被控訴人がその主張の如く粂吉の遺産相続人たる亡倉成タツよりその持分の遺贈を受けたとしても、被控訴人はタツの遺産相続人の一人であるから、タツより右物件の贈与を受けた亡倉成敬二郎及び同人の相続人たる控訴人等に対するタツの右贈与に基く持分移転の登記義務を当然相続承継したものである。従つて被控訴人は民法第一七七条にいう所謂第三者には該当しないので、控訴人等は登記がなくても被控訴人に対し右贈与に因る三分の一の持分(タツの持分)の取得を対抗することができる。

二、仮に被控訴人が右に所謂第三者に該当するものとしても、被控訴人が控訴人等に対して登記の欠缺を主張することは権利の濫用であつて許されない。

(被控訴代理人の主張)

控訴人等の前記一・二の主張は否認する。仮に控訴人等主張のようなタツの敬二郎に対する生前贈与が認められるとしても、被控訴人も亦タツからその持分の譲渡を受けたものであり、従つて敬二郎及び同人の相続人たる控訴人等はタツの遺産相続人として受贈者たる被控訴人に対し、タツの被控訴人に対する持分移転の登記義務をも当然相続したものであるから、被控訴人と敬二郎及び同人の相続人たる控訴人等との間では、その地位に差異はなく、まさに二重譲渡の場合に該当するものとして両者の優劣は対抗要件たる登記の有無によつて決すべきものといわなければならない。

(証拠)(省略)

理由

一、倉成粂吉が昭和二四年一一月六日死亡し、倉成タツが同人の妻として、倉成敬二郎、佐護キヨ、倉成喬及び被控訴人が粂吉夫婦の子として倉成実、倉成安正が粂吉夫婦の子倉成幾男(昭和二〇年五月八日死亡)の子として幾男を代襲して、粂吉の遺産を相続しその権利義務を承継したこと、敬二郎が昭和三一年三月二七日死亡し、控訴人郁子が同人の妻として爾余の控訴人等が同人の子として敬二郎の遺産を相続し、その権利義務を承継したこと、タツが昭和三四年三月一二日死亡したこと、被控訴人が原判決添付目録(一)(二)記載の不動産(尤も目録(二)記載の物件は目録(一)9記載の物件を含む。以下同じ。)につき昭和三五年三月一五日福岡法務局同日受付第六七二五号をもつて粂吉の死亡に因る相続を原因として共同相続登記をなすとともに、同法務局同日受付第六七二六号をもつて昭和三四年三月一二日付遺贈を原因としてタツの持分三分の一の共有持分の移転登記手続をしたことは当事者間に争がない。

二、当裁判所も原判決と同一の理由により、原判決添付目録(三)記載の物件は敬二郎の建築したもので同人の固有財産であるが、同目録(一)(二)記載の物件は粂吉が他より買受け取得したもので、同人の死亡当時その遺産を構成し、前記粂吉の共同相続人はその相続分に従いこれを相続し、タツは三分の一、被控訴人は一五分の二の各持分を取得するに至つたこと、ところがタツは前記自己の持分三分の一につき、昭和二八年一〇月一六日敬二郎との間に同人にこれを贈与する旨の契約を締結し、次いで更に昭和三三年三月一九日これを被控訴人に遺贈する旨の遺言公正証書を作成し、右贈与契約及び遺贈はいずれも有効であつて所謂二重譲渡の関係が成立するに至つたこと、を判断するので、原判決の当該理由記載をここに引用する。

原判決の認定に牴触する甲第三号証、乙第九第四〇第四一号証の記載、原審証人浦田哲一、同谷口信一郎、同阿部栄助、同永田計介(第一・二回)、同石橋久子、同富重仁三郎、当審証人井川稔、原審及び当審証人山本五郎(原審は第一・二回)、同溝口広次の各証言、原審及び当審における控訴人倉成郁子並びに当審における控訴人倉成太郎の各本人尋問の結果、原審での検証の結果は右認定に援用した各証拠に対比し措信するを得ない。

三、そこで次に前記所謂二重譲渡によるタツの持分の帰属について検討を加えることとする。

一般に不動産の二重譲渡においては、譲受人が譲渡人の法定推定相続人である場合でも、譲渡人の生存中には民法第一七七条の適用を見ることは論を俟たないところであるが、譲渡人が死亡しその遺産相続が開始した場合には、相続人たる譲受人は譲渡人の地位を包括承継し、譲渡人の他の譲受人に対する所有権移転の登記義務を承継する結果、最早他方の所有権取得を否定し、自己の所有権取得を主張する権利を失つたものと解するのが相当である。

これを本件について見ると、被控訴人はタツの相続人であるから、自己の遺贈に因る持分取得を敬二郎又はその相続人である控訴人等に主張する権利を失い、又敬二郎の死亡に因りタツの遺産を代襲相続した控訴人郁子を除く爾来の控訴人はタツの包括承継人として前記贈与による自己の持分取得を被控訴人に主張する権利を失つたものといわねばならない。そうするとこの法律関係を合理的に理解するときは、タツの包括承継人でない控訴人郁子はタツ及び敬二郎間の贈与契約に基き、且つ敬二郎の死亡に因る同人の相続人として自己の相続分に相応する持分をタツの総ての相続人に対する関係において有効に取得したものとし、タツの共同相続人間においてはタツの持分より右控訴人郁子の取得持分を控除した残り持分を、前記贈与契約及び遺贈なかりしものとして、各自の相続分に従い承継取得するものとするのが至当である。

従つて控訴人郁子はタツの持分三分の一を、その相続分三分の一の割合による九分の一だけ取得することになるので、被控訴人はタツの持分三分の一より控訴人郁子の右取得持分九分の一を控除した残り持分九分の二に対する自己の相続分五分の一の割合による四五分の二だけを相続したこととなり、結局、被控訴人は本件目録(一)記載の物件につき、粂吉の死亡に因り相続した前叙持分一五分の二を加えた合計四五分の八の持分を有するものというべきである。

四、そうすれば、被控訴人の本訴請求中持分確認を求める分は前項認定の限度においてこれを正当として認容すべく、又目録(三)記載の物件につき所有権取得登記の抹消を求める分はその前提要件たる該物件が粂吉の遺産であることが認められない以上は失当として棄却を免れない。

更に控訴人等の反訴請求中相続登記の抹消を求める分は、当該物件が亡粂吉の遺産であり、且つ右登記手続は亡粂吉の相続人たる被控訴人よりなされた適法のものであるから、理由なきものとして排斥すべきであるが、被控訴人の本件遺贈を原因とする持分移転登記は実体上の権利を欠ぐ無効のものであるから、これが抹消登記手続を求める分は正当として認容すべきである。

五、よつてこれと異る原判決は失当であるから原判決中控訴人等関係部分を主文のとおり変更すべきものとし、民事訴訟法第三八六条第九六条第八九条第九二条を適用して主文のように判決する。

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